学校日記

虹の足

公開日
2020/04/24
更新日
2020/04/24

日々のできごと

「虹の足」      吉野 弘

 雨があがって
 雲間から
 乾麺みたいに真直な
 陽射しがたくさん地上に刺さり
 行手に榛名山が見えたころ
 山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
 眼下にひろがる田圃の上に
 虹がそっと足を下ろしたのを!
 野面にすらりと足を置いて
 虹のアーチが軽やかに
 すっくと空に立ったのを!
 その虹の足の底に
 小さな村といくつかの家が
 すっぽり抱かれて染められていたのだ。
 それなのに
 家から飛び出して虹の足にさわろうとする人影は見えない。
 ———おーい、君の家が虹の中にあるぞオ
 乗客たちは頬を火照らせ
 野面に立った虹の足に見とれた。
 多分、あれはバスの中の僕らには見えて
 村の人々には見えないのだ。
 そんなこともあるのだろう
 他人には見えて  
 自分には見えない幸福の中で
 格別驚きもせず
 幸福に生きていることが——。

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